進路指導ををする教職員に求められる能力はたくさんありますが、そのうちの一つとして「進学先が良い学校なのかを見極める力」が挙げられます。判断基準として、教育理念、就職率、就職先、大学院進学率、論文引用数、外国人留学生比率、偏差値、財政状態、定員充足率、学生数に対する教員数、専任教員の比率、途中退学率、国際ランキング、卒業生の評判、などなど、見るべきポイントはたくさんあります。その中であまり注目されていないのが「奨学金の返済延滞率」です。今回はこれについて説明したいと思います。
「就職先」や「就職率」はあてにならない
2大学、専門学校は卒業生の「就職先」や「就職率」を公表しています。良い教育ができているところは良い就職ができているだろうという前提で、受験生や親御さんもそれを参考に学校選びをすることも多いでしょう。しかし、個人的にはこの「就職先」や「就職率」はあまり参考にならないと考えます。
3どの学校も自分の学校のいいところを見せたいので、この「就職先」や「就職率」の見せ方を工夫しています。「就職先」は全ての学生のものを表示するのではなく、有名大手企業に受かった人だけを紹介したり、1年分だけではなく過去数年分を表示したりするのはよくある手法です。
4「就職率」についても分母を調整して数値をよく見せるという話をよく聞きます。「就職者数/卒業生数」として公表するところは少なく、「就職者数/就職希望者数」として数値を公表している学校が多いです。この「就職希望者数」が学校によって定義が違うことが多いのでやっかいです。「就職課に相談に来た人」を就職希望者数にしている学校は、就職課に一度も顔を出さずに卒業した人を分母に入れていません。「就職活動に失敗したので、3月に進路変更をして1年海外留学をすることにした」という人を就職希望者数に入れるのかどうかも学校によって判断がわかれるでしょう。「就職希望者」に大学院進学者、大学院進学浪人、アルバイト、家事手伝いを含めないという学校もあります。進学希望者は就職希望者数に入れる必要はないと思いますが、「アルバイト」、「家事手伝い」はどうでしょうか。この中には、就職ができずにその道を選んだという「就職浪人」に当たる人も多いのではないかと思います。
5「就職率」は分母だけではなく分子にも問題があることがあります。「専門学校ではアニメーションを専攻していて、有名アニメ再作会社に就職を決めた」という場合、もちろん就職者1名とカウントされます。その一方で、「専門学校ではアニメーションを専攻していて、アニメ業界を志望していたが、何十社も受けたが全て落ちてしまい、仕方なく飲食業界で働くことにした」という場合でも、就職者1名とカウントされます。この二つが同価値で扱われている時点で、「就職率」はその学校の教育の質を測る基準になりえないと考えます。
「奨学金の返済延滞率」
(※この記事でいう「奨学金」は全て「日本学生支援機構の貸与型の奨学金」を指します。)
6そこで、「その学校の学生が良い就職ができているのか」を測るための指標の一つとして、「奨学金の返済延滞率」を紹介したいと思います。日本学生支援機構の2017年度のデータによると、大学院、大学、短期大学、高等専門学校、専修学校の総在籍者数は362万1610人となっており、そのうち奨学金をもらっている数が129万2297人で全体の35.7%となっています。この35%の学生の奨学金返済状況を見ることで、就職の実態が見られるのではないかと考えます。
7名目上「就職」をしていてもまともな就職ができていない学生が多いと、この返済延滞率が上がります。優良企業への就職が多ければ、返済延滞率が下がるはずです。この奨学金返済延滞率で全てが図れるわけではありませんが、参考値にはなるでしょう。この返済延滞率の見方や、見る際の注意点などについては次の記事で紹介します。
2019.9.8 山田貴彦