【コラム】「偽装留学生」って何?

「偽装留学生」を取り上げている記事
https://news.yahoo.co.jp/articles/06ef60d36e2fab1bbb63d500d82ed7f666c150df

 

ここ数年、留学生関連の記事に「偽装留学生」という言葉が増えてきたように感じます。上記URLは最近ウェブに公開された「偽装留学生」という言葉が出てくる記事です。今回はこの「偽装留学生」とは何なのかということを考えてみます。

「偽装留学生の定義は?」
調べてみたところ「留学生」や「不法就労」などの言葉は法令で定められた定義がありますが、「偽装留学生」という言葉は公に定められたものではないようです。この筆者だけが使っているものなのか、他の記者も使っているものかはわかりませんが、どなたかが造った言葉のようです。

「どんな人が偽装留学生なのか?」
偽装留学生がどんな人を指しているかは、今回の記事内では明確に定義していませんが、以下のような表現が出てきます。

・学力や語学力の面で「優秀」とは呼べない偽装留学生が多く含まれている。

偽装留学生の多くは、日本の専門学校や大学を卒業していても、ホワイトカラーの仕事に就ける日本語能力が身についていない。

・元偽装留学生は、日本で移民となっても、キャリアアップは望めない。日本語能力が乏しいため、底辺労働に固定されてしまう可能性が高いのだ。

・彼らは「週28時間以内」の法定上限を超えて働くしかなくなるのだ。そんな出稼ぎ目的の偽装留学生たちを底辺労働者として散々利用し、…

偽装留学生という言葉の構成を考えると、「留学生を装っているが、実は留学生ではない人」という意味のはずですが、記事の筆者は「週28時間を超えて働いていて、かつ日本語力や学力が劣る留学生」を偽装留学生と呼んでいるようです。これは正しい表現ではないと思います。

留学生がアルバイトをする場合は、週28時間以内で行わなければならないというのは法令で定められていることです。これを守らないことはもちろん違法行為なので問題があります。しかし、アルバイトをしすぎている学生が「留学生ではない」というのは言い過ぎでしょう。「留学」の在留資格を維持するためには、日本語教育機関や高等教育機関などに通い続けなければなりません。通っていない場合は在留資格の更新ができなくなり、日本には滞在できなくなってしまいます。よって、記事の筆者が言っている「偽装留学生」は留学活動をしていないわけではないのです。彼らは留学」活動をしつつアルバイトもたくさんしている学生なのです。「偽装留学生」と言ってしまうと、まるで学校には通わずにアルバイトばかりしている印象を受けてしまうので良くないというのが私の意見です。

「偽装留学生は多いのか?」
記事の筆者は「偽装留学生」について次のように記しています。

・しかし留学生には、少なくとも学力や語学力の面で「優秀」とは呼べない偽装留学生が数多く含まれる。

・偽装留学生の多くは、日本の専門学校や大学を卒業していても、ホワイトカラーの仕事に就ける日本語能力が身についていない。自ら就職活動することすらできないのだ。そんな彼らの存在に着目し、就職斡旋業者が暗躍している。…(中略)…やはり斡旋業者に手数料を支払い、偽装就職していくケースが目立つ。こうした偽装就職の斡旋ビジネスが、安倍政権下で大繁盛することになった。

・日本語学校の数は安倍政権下で急増し、大学をも上回る800校近くまで膨らんでいる。その中には偽装留学生を受け入れ、教育そっちのけで営利追求に走っている学校があまりに多い

記事の筆者は、「偽装留学生は多い」、「それを受け入れている日本語学校も多い」というようなことを言っていますが、果たしてそれは本当なのでしょうか。
出入国在留管理庁の公表資料『平成30年の「在留資格取消件数」について』によると、留学生でアルバイトを理由に在留資格を取り消された人数は111名となっています。33万人中のたった111名しか摘発されていない状態なのに、これを「多い」と言えるのでしょうか。もちろん、摘発されてはいないが週28時間を超過している留学生もいないとは言えませんが、その数は統計上取れていません。そうであるのに、記事の筆者はそれをどう調査し「多い」と判断したのでしょうか。この点において、「偽装留学生は多い」というのは数値的な根拠に乏しい主張であると私は思います。

「まとめ」

まとめると、ポイントは2つです。まず、「偽装留学生」と言われている人たちは学校に通っていないわけではないということ、そして、その数が多いとは断言できないということです。
私はアルバイトを制限を超えてやっている人を擁護するつもりはありません。法律はしっかり守るべきだという立場なので、週28時間を超えてアルバイトをしなければ留学生生活が維持できない学生は日本に来るべきではないし、もし来てしまったのであれば帰るべきだと思っています。しかし、真面目にがんばっている留学生も多い中、「偽装留学生が多い」と言われてしまうことは残念に思っています。

【コラム】「偽装留学生」って何?” への4件のフィードバック

  1. 「偽装留学生が多い」という数値的根拠はないが、「真面目にがんばっている留学生」が多いという数値的根拠もない。と言ったら屁理屈だろうか。私の身近にはアルバイト漬けの留学生、そもそも出稼ぎのために留学生資格を利用しただけの外国人がたくさんいる。だから、「偽装留学生」という言葉が即理解できたし、「よくぞ適格な言葉を言ってくれた」とさえ思った。「しかし「真面目にがんばっている留学生」が多い環境にいるのなら、「偽装留学生」には気付けないだろう。「偽装留学生」は貧困や労働の問題であって、日本語教育の問題ではないのだから。

    1. コメントありがとうございます。

      おっしゃる通り、環境によって留学生の質はかなり変わってきます。
      出稼ぎを主目的とした留学生が多い学校もあれば、勉学を主目的とした留学生が多い学校もあり、学校の学生募集方針によって大きく変わります。

      私が所属している学校で言うと、10数年ぐらい前は3~4割が出稼ぎが主目的の留学生がいましたが、現在はアルバイトをしている学生が全体の5%程度となっています。
      この10数年で学生募集の方針が変わったのが大きいと思います。

      私は幸いにも「偽装留学生」が少ない環境にいますが、そういう人達が集まってしまう学校があるということも事実です。それを報道してもらうことも大切なことなので、「偽装留学生」の報道そのものは否定しません。ただ、ジャーナリストとして「偽装留学生が多い」と書くのであれば、客観的な数値根拠が欲しいかなと思い、記事を書かせてもらいました。

    1. 記事のご紹介、ありがとうございます。
      楽しく読ませてもらいました。

      お金がない留学生は受け入れるべきではないし、帰すべきだというという結論は同じなのですが、「偽造留学生」という言葉に対するスタンスは大きく違うことがおもしろいなと感じました。

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